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VHL(フォンヒッペルリンドウ)病の眼病変

更新日:7月19日

当院では泌尿器科を併設しておりますが、泌尿器科と眼科はあまり結びつきが無いように思えますか?

実は眼と腎臓に病変を起こす病気があるのです。フォン・ヒッペル・リンドウ(von Hippel-Lindau;VHL)病という病気です。



VHL病とは


VHL病は全身のいろいろな臓器に腫瘍ができる遺伝病です。私たちの身体の細胞一つ一つに2組の遺伝子の束(染色体)が入っています。それぞれお父さんお母さんから受け継いだものです。遺伝子というのは体の設計図のようなもので、臓器から血球、生理活性物質まで身体のありとあらゆる臓器や分子を作るもととなるものです。1個の遺伝子に対して1対の遺伝子がありますが、VHL病の患者さんは、身体の全ての細胞で2本の遺伝子のうち、1本のVHL遺伝子に変異を起こしているか、欠損しています。



VHL病と癌の関係


VHL遺伝子の働きはまだ全部わかっていませんが、一つ言えることはがん抑制遺伝子として働いており、VHL遺伝子が欠損すると細胞が癌化してしまうのです。

1本のVHL遺伝子は残っているのに欠損するのは何故でしょうか?私たちの身体は常にダメージを受けています。紫外線、タバコ、発がん性物質、薬物、放射線などは細胞の遺伝子を傷つけます。VHLの患者さんにこのようなダメージがたまたまVHL遺伝子に起こると、その細胞はVHL遺伝子が全く欠損してしまうのです。


2本のVHL遺伝子が欠損した細胞が癌化すると、全身のいろいろな臓器に多発的に血管の豊富な腫瘍を発症します。主な腫瘍として脳や脊髄の血管腫、網膜の血管腫、腎細胞癌、副腎褐色細胞腫、膵臓腫瘍、精巣上体腫瘍があります。腎細胞癌と膵臓腫瘍は他臓器やリンパ節に転移を起こし得ます。VHLの患者さんは、これらの腫瘍を比較的若年に発症し、中でも網膜血管腫はガイドラインによると新生児期よりスクリーニングの眼底検査を受けた方がよいということです。



VHL病の遺伝と発症


この病気の遺伝形式は、常染色体優性遺伝です(最近は顕性遺伝っていうらしいですね)。ですから親から子に伝わる確率は50%です。

発症に性差はありません。発症年齢は3-4才から50才代まで広範囲です。

日本においては200~300家系くらいと推定されており、国内での患者数は600人から1000人くらいです。家族歴があり親から受け継いだ方と、家族歴がない新規突然変異例の割合は4対1くらいだそうです。



VHL病の眼病変


VHL患者さんの眼病変は網膜の血管腫です。10歳前後からみられ、頻度は50%~70%くらいだそうです。

写真は網膜の周辺部にできた血管腫(白っぽい赤の腫瘤)です。腫瘍に流入する栄養血管と排出血管が太くなっています。黄色い部分は血管腫からの浸出が結晶化したものです。



Wiley HE et al. MANAGEMENT OF RETINAL HEMANGIOBLASTOMA IN VON HIPPEL-LINDAU DISEASE. Retina. 2019 Dec;39(12):2254-2263.より出典。


傍視神経乳頭型の血管腫の写真です。

病変は分かりにくいのですが、黒丸の中にあります。この部分に血管腫があるので、網膜の血管の血流障害から黄斑浮腫を起こしています。そのために黄色い浸出が蓄積しています。

Wiley HE et al. MANAGEMENT OF RETINAL HEMANGIOBLASTOMA IN VON HIPPEL-LINDAU DISEASE. Retina. 2019 Dec;39(12):2254-2263.より出典。


VHL病の治療方法


全身に多発的に腫瘍が発生するので、定期的に画像診断や診察を受けて、腫瘍を早期に発見し腫瘍を切除することです。必然的に何度も手術を受けることになるため、QOL(生活の質)が著しく低下します。早期に見つけてなるべくダメージを最小限に抑え、術後の早い回復を目指すことが肝要です。

当院の泌尿器科担当医師は横浜市立大学附属病院で、遺伝性腎腫瘍の専門外来を行っています。


VHL病の治療指針から以下、網膜血管腫について抜粋します。


新生児期から散瞳による眼底検査を行う。必要に応じて蛍光眼底造影検査も行う。

治療の基本は網膜光凝固であり合併症に対して手術を行う。傍視神経乳頭型では網膜光凝固が不可能な場合もある。


検査の頻度

血縁者にVHL患者さんがいる場合、新生児で眼底検査を行い、眼底病変を認めない場合は、1年毎に観察を行う。病変を認め視力に影響を及ぼす場合は適宜、影響を及ぼす可能性の低い場合は 1 年毎に観察する。


身体の他の病変が見つかり眼底検査を行う場合は、網膜病変をみとめなければ 2 年毎に観察する。病変を認め視力に影響を及ぼす場合は適宜、視力に影響を及ぼす可能性の低い場合は 1 年毎に観察する。


検査の方法

眼底検査と細隙灯顕微鏡検査により診断する。病変を認める場合は蛍光眼底造影検査、網膜光干渉断層検査、超音波検査を行う。


治療

周辺部に網膜滲出性病変があればレーザー網膜光凝固を行う。網膜剥離を合併している場合には、観血的手術を行う。網膜冷凍凝固については慎重な実施が望ましい。傍視神経乳頭型 の滲出性病変を認め、網膜光凝固可能な場合はレーザー光凝固を行う。不可能な場合の治療法は確立されていない。近年では生物学的製剤の硝子体注射や光線力学療法の効果が報告 されている。また、VHLの機能に基づいて開発された新しい機序の治療薬が治験段階だそうです。


今回のお話は少し専門的な内容でしたね。まとめると、VHL病は遺伝する病気で、網膜に血管腫を発症する可能性があるため、VHL病と診断されたら、眼底検査を定期的に受けましょう。血管腫が見つかったら、視力に影響するかどうかを見極め、適切に治療を行う必要があります、と言う事になります。


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この記事の執筆者


元町マリン眼科

院長 蓮見由紀子

所属学会・認定医

医学博士

日本眼科学会認定専門医

横浜市立大学附属病院非常勤講師(ぶどう膜専門外来)













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