今日はウイルスによって起こるぶどう膜炎の一つ、HTLV-1ぶどう膜炎(HTLV-1 associated uveitis;HAU)という病気について解説します。
ぶどう膜炎について
ぶどう膜とは眼の中の血流が豊富な膜で、具体的には茶目の部分(虹彩)とその奥に続いている脈絡膜という、網膜より外側の膜の事を言います。ぶどう膜炎はそのぶどう膜に炎症を起こす病気で、ウイルスや細菌など感染によっておこるものや、自分の免疫の異常で起こる非感染性ぶどう膜炎とがあります。
HTLV-1ウイルスとは
HTLV-1は、Human T-cell Leukemia Virus type I(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)の略称で、ヒトに感染するレトロウイルスの一つです。HTLV-1は体内に侵入して、血液中の白血球の一つであるリンパ球のうちのT細胞に感染します。HTLV-1感染細胞では染色体(ゲノム)DNAにウイルス遺伝子が組み込まれ、プロウイルスとして感染細胞中に定着します。こうしてゲノムの中に取り込まれたウイルスは、生涯にわたって体内に住み続けて、一部が増殖したり、複数の細胞が感染することで、ウイルスに感染したT細胞の数(感染細胞率=プロウイルス量)が増えていきます。
一度感染してしまうと、現時点では抗ウイルス薬などでウイルスを排除することが出来ません。感染している方をHTLV-1キャリアーといいます。HTLV-1 キャリアーの数は地域によって違いがあり、日本に於いてはかつては九州地方に多かったのですが、近年は人々の流動によって大都市圏でもその数は増加していると言う事です。日本全体では80~100万人のキャリアーがいるといわれており、先進国では最も感染人口が多い国となっています。
感染が広がる様式は、HTLV-1陽性の母親から子供への母乳を介した垂直感染、パートナーとの性交渉による垂直感染があります。かつては輸血や献血などで医原性に感染したケースもありましたが、今では輸血前や献血時には必ずHTLV-1の検査を行う事になっています。
HTLV-1による症状
HTLV-1によって引き起こされる疾患にはATL(成人T細胞白血病)とHAM/TSP(HTLV-1関連脊髄症)、HAU(HTLV-1ぶどう膜炎)があります。キャリアーの95%は無症状で一生発症しない方の方が多いのですが、約5%の方がATLを発症します。HAMやHAUを起こす確率はもっと低く0.3%かそれ以下くらいです。
ATLとは、成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma)の略で、白血病・リンパ腫の一つです。ATLの年間発症率は40歳以上のHTLV-1キャリアーの1000人に一人といわれていて、男女比は1.2:1と、やや男性に多い傾向があります。患者年齢は高齢者に偏り、40歳以下での発症は極めてまれで、発症のピークは60歳代の後半です。
HAMとは、HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-Associated Myelopathy)の略で国の難病に指定されています。HTLV-1キャリアの約0.3%がHAMを発症することが報告されていて、HAMの患者さんは全国で約3,000人いると推定されています。
HAUの有病率はキャリアー10万人当たり90人から110人といわれています。つまり1000人に1人くらいですね。男女比は、女性が男性の約2倍多く、特にバセドウ病の既往がある方に発症しやすいことが知られています。HAUとHAMは合併しやすい事も知られています。
HAUを疑う症状
HAUは以下のよう症状が現れます。
眼の前に虫やゴミが飛んでいるようにみえる(飛蚊症)
かすんで見える(霧視)
目の充血
視力の低下
HTLV-1キャリーの方で、上記のような症状が現れて、なかなか改善しないようでしたらすぐに眼科を受診してください。その場合は、HTLV-1キャリアーであることを受診先で伝えると、原因検索の助けになるかもしれません。
片眼性と両眼性は片眼性の方がやや多く、左右それそれ別の時期に症状が現れることがあります。
左は発症前、右は発症後です。眼底がぼやけて見えるのは、硝子体混濁のためです。
(実際の患者さんに許可を得て写真を掲載しております。ご協力ありがとうございました!)
HAUの診断
HAUの診断は、以下の要件を満たすことが必要です。
特徴的なぶどう膜炎の症状がある。
他のぶどう膜炎の原因となる疾患が否定される。
HTLV-1陽性である。
ですが、この2番が難しく、ぶどう膜炎の約半数が原因不明なのです。ですので、HTLV-1が陽性の方で他の典型的なぶどう膜炎を起こす病気、例えばサルコイドーシスやヘルペスなどが否定できれば除外診断的に診断されることになります。
HAUの治療
HAUはステロイドに反応性が良い病気です。点眼ではなかなか硝子体には届かないので、注射や内服を行います。眼の外側で奥の方に注射をするステロイドのテノン嚢下注射を行う局所投与で改善することがほとんどで、内服が必要になるケースはまれです。
再発は30~40%の人に見られますが、上記の様に治療に反応が良好なため、慢性に経過することはほとんどありません。
今日は比較的珍しい病気の解説でした。
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この記事の執筆者
元町マリン眼科
院長 蓮見由紀子
所属学会・認定医
医学博士
日本眼科学会認定専門医
横浜市立大学附属病院非常勤講師(ぶどう膜専門外来)