今回は比較的新しい緑内障の点眼薬、エイベリスについて解説していきます。
緑内障は一度診断されると基本的に生涯に渡って治療を続ける必要があります。緑内障の治療は眼圧を下げることですが、眼圧を下げる方法は、点眼薬、内服薬、レーザー、手術療法などがあります。
多くの方は非侵襲的な点眼薬を選択することになりますが、毎日つけなければいけないため、回数が少ないもの、副作用が少ないものが好まれます。もちろん眼圧下降効果が強いに越したことはありません。
これまで、というか今現在でも第一選択薬はキサラタン(ラタノプロスト)に代表されるプロスタグランジン(PG)F2α誘導体という薬です。体への副作用は殆どなく、眼圧下降効果が強力なとても良い薬ですが、長期の使用で外見的な副作用が多かれ少なかれ起こります。睫毛が伸びたり、目の周りが黒ずむなど、何十年もつけていると、かなり特徴的な外見になることも少なくありません。この副作用のため、若い方や片目だけ点眼が必要な方には処方をためらってしまいます。
エイベリス(オミデネパグ)は2018年11月に発売された比較的新しい緑内障治療薬です。プロスタグランジンE2受容体であるEP2受容体の選択的作動薬で、PGF2α誘導体とは違う薬理作用なのですが、併用で副作用を来したことからエイベリスとタプロスやキサラタンなどのPGF2α誘導体は併用禁忌となっています。
エイベリスはキサラタンと同じくらいの眼圧下降効果があり、その上外見的な副作用が起こりにくいということから、若い方や片目の緑内障の方に処方する機会が多くなっています。
先日、エイベリスの特定使用成績調査(発売後に実臨床での安全性や有効性を確認する目的で行う調査)の中間報告をメーカーから入手しました。作用もあれば副作用もあるのが薬です。発売前に、実験や治験で安全性が確かめられているとはいえ、全ての方が問題なく使えるということではないのです。
全2883例の解析対象のうち、副作用の発現率は27%で、最も多かった副作用は結膜充血(3.6%)だったそうです。
2番め以降に多かったのは屈折障害(3.5%)、近視(1.2%)、視力低下(1.1%)でした。これらは調節障害、つまりピントを合わせる機能の障害としてまとめられるのかもしれません。合わせると5%以上の発現率になります。
また、白内障術後の人工レンズ挿入眼に使用すると、黄斑浮腫(網膜のむくみ)という重篤な副作用をきたしうるのですが、発売後は人工レンズ挿入眼に使用しないこと、という認識が広まっているため、その副作用の割合は低かったようです。
実際に当院で経験された症例では、使用して2~3日目からピントが合いづらい症状や、目のかすみを自覚され、来院時には普段-0.5Dくらいの屈折値が-2.0くらいに近視化していた方がいらっしゃいました。
マイナスの数字は大きいほど近視が強いということです。点眼中は手元30センチ位にピントがあっていました。中止後は1メートル先くらいの本来のピントに戻っています。エイベリスの成分は、毛様体というピント調節を行うところに働くので、調節緊張(いわゆる仮性近視)を起こすのですね。
5%ということは20人に1人くらいで起こすということになるのですが、これほど変化する症例は珍しいようで、メーカーの方も「ここまで変化したのは僕も初めてみました」と仰っていました。
これまで霞みや充血を訴える方は多かったのですが、今までも同様のことは経験していたのかもしれません。今回はレフ値を測ってみて変化を捉えることができたので、大変勉強になった症例でした。
まとめると、
エイベリスはこれまでの緑内障薬とは薬理作用が異なる新しい緑内障点眼剤である。
ラタノプロストなどと同等くらいの眼圧下降作用がある。
目の周りの色素沈着などの外見的な副作用を起こしにくい。
全身への影響は少ない。
5%くらいに副作用として調節機能の異常をおこす。
白内障術後には使用できない。
ということになります。今回は専門的な内容で、ちょっと難しかったかもしれません。ここまでお付き合い頂いた方ありがとうございました。
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