今日は比較的珍しい病気の話です。
ぶどう膜炎という目の炎症を起こす病気があります。ぶどう膜炎というのは眼のぶどう膜という部分に炎症を起こす病気の総称です。ぶどう膜炎を起こす病気の種類はいろいろなものがありますが、ウイルスや細菌が起こす感染性ぶどう膜炎と、非感染性ぶどう膜炎があります。非感染性ぶどう膜炎は、サルコイドーシスや原田病、ベーチェット病などが代表的な疾患ですが、原因はまだよくわかっていません。
ぶどう膜炎の原因疾患を調べることは、病気の治療や予後に大きく関わってくることなので、なるべく原因を突き止めたいのですが、大学病院で採血やレントゲンをいろいろ調べても診断がつかないことも多々あります。
フックス異色虹彩毛様体炎は、そんなぶどう膜炎の1~2%を占める病気で、典型的には比較的若い方の片目に起こる、治療に抵抗性で慢性に経過するぶどう膜炎です。虹彩というのは瞳の周りの部分で、茶目にあたる部分ですが、虹彩に炎症を起こすのが虹彩炎です。このぶどう膜炎は、眼の奥の方の網膜や脈絡膜に病変を起こすことはまれです。
Fuchs Heterochromic Iridocyclitis, by Brian C. Tse, MD, Sarwat Salim MD, FACS
フックス異色虹彩毛様体炎の症状
虹彩異色…炎症を起こす方の眼の虹彩が萎縮してくることにより、瞳の色が薄くなるのがこの病気の特長ですが、日本人は虹彩の色が暗いので分かりにくいと言われています。
白内障…慢性の炎症のため、健眼より早く白内障が進行します。白内障のタイプは後嚢下白内障が多いと言われています。白内障手術により視力は改善します。
虹彩炎…あまり症状を自覚することのない、マイルドな炎症が長期にわたって続きます。炎症の結果として、結節や角膜後面沈着物が観察されます。ステロイド点眼に反応が乏しく、また自覚症状もないので通常は無治療で経過観察をします。
眼圧上昇と緑内障…慢性の炎症の結果として眼圧が上昇し、続発性の緑内障となることがあります。また、エピソード的な眼圧上昇を繰り返すうちに、眼圧が下がらなくなり手術を要するケースがまれにあります。
アムスラーサイン…角膜とレンズの間にある眼の中の水が溜まっている部分(前房)に針を刺す(穿刺)すると、出血がみられるのがこの病気の特徴と言われています。何故そんなことをするのかというと、前房の水を取ってきて、PCR(コロナですっかりおなじみになった)をすることによって病因がわかることがあるからです。しかし、この病気の真の原因はまだ解明されていません。トキソプラズマという原虫やサイトメガロウイルス、風疹ウイルスなどが疑われています。
フックス異色虹彩毛様体炎の治療
治療は、炎症自体は前述のように治療に抵抗性なため、対症療法的に介入していきます。つまり、眼圧上昇で視野欠損が進行するようであれば、緑内障として治療をします。白内障が進行して視力が低下すれば白内障手術をします。これらの症状が出現するまでは、数か月に1回の経過観察で良いと思われます。
患者さんは比較的若い方が多いので、眼圧上昇時に違和感や目の圧迫感を感じる方も多く、そのような場合には早めに眼科を受診して、眼圧を測ってもらいましょう。眼圧上昇は通常2~3日で、無治療で下がることもよくありますが、40~50ととても高い数字になることがありますので、その場合は点滴や飲み薬で下げた方が良いでしょう。
今日はフックス異色虹彩毛様体炎のお話でした。ちょっと難しかったですね。
私がまだ大学院生で、ぶどう膜の右も左もわからぬ頃(今もあまりわかってないかもですが💦)、大学病院のぶどう膜外来で初めてフックスを診断して吉野町眼科の中村先生に褒めてもらったのを今でも記憶しています。フックスと診断できると言う事は、視力予後が基本的には悪くないと言う事なのでフックスは見つけると少しうれしい疾患です。
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この記事の執筆者
元町マリン眼科
院長 蓮見由紀子
所属学会・認定医
医学博士
日本眼科学会認定専門医
横浜市立大学附属病院非常勤講師(ぶどう膜専門外来)