今回は、ぶどう膜炎の原因の一つである比較的稀なVKH病(Vogt-小柳-原田病、Vogt-Koyanagi-Harada病)について解説します。それぞれ別の病気と考えられて、症例報告をした先生方の名前の頭文字を取ってVKH病とも呼ばれていますが、日本では原田病という呼び名が一般的です。実は、VKH病は眼だけの病気ではなく、自己免疫によって眼、皮膚、髪、耳、神経などの多くの臓器に影響を与えうる病気で、ステロイドによる全身的な治療が必要になります。
VKH病の概要
VKH病は、メラノサイト(色素細胞)に対する自己免疫反応が原因とされており、メラノサイトを有する黒色人種やアジア人に多く見られます。発症は中年がピークですが、高齢者やもっと若年者に起こり得ます。
この疾患は、眼を含む多臓器に対して炎症を引き起こし、急性期では視力障害や頭痛、耳鳴りなどの症状が出現します。
VKH病の症状
VKH病の症状は多岐にわたりますが、以下の主な症状が見られます。
眼症状:
視力低下
光がまぶしい(光視症)
眼痛や充血
飛蚊症
歪んでみえる
ピントが合わない症状(毛様体の浮腫による浅前房が起こるため)
両眼性が多いが、片眼性も稀にある
皮膚・髪・耳:
髪の脱毛(特に眉毛)、頭髪ピリピリ感
皮膚の脱色素斑(白斑)は発症後しばらくしてから起こる
耳鳴りや聴力障害、めまい
神経系、その他全身症状:
頭痛、首の硬直、発熱
脳脊髄膜炎のような症状
よくよく聞くと1~2週間前に風邪様の症状が先行している事が多い
VKH病の診断・治療
VKH病の原因は、何らかのウイルス感染などが契機になり、体内のメラノサイトに対する自己免疫反応が誤って働き、炎症を引き起こす自己免疫病です。特定された病原体はなく、遺伝的な要因があるとも言われていますが、はっきりとした原因はわかっておりません。
診断
VKH病の診断は、臨床症状と眼科的検査結果をもとに行われます。主な検査として、以下が挙げられます。
眼底検査:網膜剥離やぶどう膜炎を確認するために行われます。OCTの網脈絡膜の特徴的な所見が決め手となります。
蛍光眼底造影:網膜の血管や脈絡膜の状態を評価します。
腰椎穿刺:背中に針を指して髄液を採取し、その中に炎症細胞があるかどうかを調べます。
聴力検査:難聴があるかを調べます。
治療
VKH病の治療は、炎症を抑えるために免疫抑制剤やステロイドを使用することが一般的です。治療の目標は、視力の維持や炎症の進行を防ぐことです。治療の遅れは視力障害や失明を引き起こす可能性があるため、早期の診断と治療が非常に重要です。
ステロイド治療:急性期には入院して高用量のステロイド点滴が使用され、症状が安定した後は内服に切り替え徐々に減量していきます。
免疫抑制剤:ステロイド治療が効果的でない場合や長期治療が必要な場合、免疫抑制剤が用いられます。
対症療法:頭痛や耳鳴りなどの症状に対しては、必要に応じて対症療法が行われます。
予後
適切に治療が行われれば、多くの患者で症状の改善が見られます。症状が軽い場合は自然軽快することもありますが、症状が進行すると眼底が夕焼け状になり、中には視力の低下や慢性のぶどう膜炎など、長期的な合併症が残る場合もありますので、早めに適切な治療を受けることが重要です。治療後も合併症や再発を予防するため、定期的なフォローアップが必要です。
まとめ
VKH病は、多臓器に影響を与えうる自己免疫疾患ですが、特に眼に対する影響が大きく、適切な治療が行われなければ視力に重大な障害をもたらす可能性があります。早期診断と治療が鍵となるため、異常を感じたら速やかに眼科を受診し、専門医の診断を受けましょう。