本日の症例のご紹介は、30年以上、目頭の逆さまつげと戦ってきた親子のストーリーです。長年の悩みから開放されて、晴れて今回で卒業となりました。実は今回の患者様は生まれつきのダウン症という病気がある方ですが、手術は局所麻酔下に全く問題なく行うことができ、術後の経過も大変良好だった方です。
同じ病気でお困りの方のお役に立てれば、とお母様から写真を使ってください、とおっしゃっていただきました。(お写真のご協力ありがとうございました)
目頭の逆睫毛がひどく、お母様がいつも抜いていたようですが、だんだん抜くのが大変になってきた上、角膜に白い濁りが出てきた、ということで来院された方です。今回の角膜の濁りは逆睫毛とは関係ないものでしたが、逆睫毛で角膜が混濁することもありますので、放置しておくのはあまり良くないと思われます。
ダウン症の方は特に蒙古襞という目頭側の皮膚のつっぱり=内眼角贅皮(ないがんかくぜいひといいます)が特徴的で、そのために目頭に逆睫毛をきたすことが多いのです。この蒙古襞による目頭側の逆睫毛は、目頭切開の良い適応です。しかし、当院では全身麻酔は行っておらず、最初は私も局所麻酔下の手術は困難かもしれないと考えてしまい、睫毛の電気分解をお勧めしたのです。しかし、患者さんやお母様とお話しするうちに、とても穏やかな方なので、電気分解に耐えられるならば、目頭切開も可能かもしれないと考えなおし、相談して目頭切開を行うことにしました。
手術当日はお気に入りのダンスミュージックをかけながら、何の問題もなく行うことができました。麻酔の痛みにも耐え、術中も「痛くないです」と終始落ち着いているご様子でした。
翌日です。目頭側の白目が大きくなり、バランスの良い二重になりました。睫毛の向きは改善して、内側に入り込む睫毛はほとんどなくなりました。
抜糸後です。キズの赤みがあり、少し膨らんでいますが、1ヶ月後をピークに傷跡は徐々に目立たなくなっていきます。
2ヶ月後にはだいぶ赤みも改善し、傷跡は目立たなくなってきています。メガネを作りに行ったところ、眼鏡屋さんでも美人になったと褒められたそうで、御本人も嬉しそうでした。目頭に数本は逆まつげが残っていますが、1度睫毛の電気分解をして、だいぶ入る睫毛は減ったとのことです。
お母様はもっと早くこの手術を受けさせたかったそうですが、やってくれるところが見つからなかったとのこと。障害があるので手術は無理だろうと断られた事もあったそうです。
ダウン症の方はとても素直で穏やかな方が多いので、一般的に考えられているより、手術や処置に対する受け入れは良いのかもしれません。すべてがうまくいくとは言えませんが、逆まつげでお困りの方がいれば局所麻酔での目頭切開も選択肢の一つになり得ると勉強になった症例でした。
元町マリン眼科では目頭の重症の逆まつげに対して、内眥(ないし)形成を行っております。春頃まではZ形成を行うことが多かったのですが、本症例はリドレーピング法で行っております。リドレーピング法はZ形成より傷跡が目立ちにくいので最近は多用しています。
下の逆睫毛がひどくてべったり入ってしまう方も、目頭切開を併用した方が良い結果が得られています。その場合は2回に分けて手術を行うことがあります。
手術は局所麻酔下に行い、片目15分くらいです。目頭に3~4か所とても細い縫合を行います。5~7日後に抜糸をします。
費用:保険適応で片目15000円~55000円(内反程度により異なります)
リスク:痛み、出血、腫脹、発赤、瘢痕形成、色素沈着、色素脱失、逆睫毛の残存、再発など
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