重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)とは?
重症筋無力症(Myasthenia Gravis、略してMGと呼ばれます)は、筋肉がうまく収縮しなくなる病気です。この病気は、体の筋肉と脳をつなぐ「神経」と「筋肉」の間にある信号の伝達に問題が起こることで発症します。通常、脳から筋肉に送られる信号によって筋肉は動きますが、重症筋無力症では、この信号の伝達がうまくいかなくなり、筋肉が思うように動かなくなります。
具体的には、体を動かすための筋肉が疲れやすく、しっかりと動かすことができなくなります。この病気は、体のどの筋肉にも影響を与える可能性がありますが、特に顔の筋肉や呼吸に関わる筋肉、そして目の筋肉に症状が現れやすいのです。
眼瞼下垂(がんけんかすい)との関係
重症筋無力症の症状の中でも、眼瞼下垂(まぶたが下がる状態)は一般的なもので、初発症状であることもあります。眼瞼下垂とは、まぶたが下がってきて、目が開けにくくなる状態を指します。重症筋無力症の場合、目の周りの筋肉がうまく動かなくなることで、まぶたが上がりにくくなります。この症状は、目がしょぼしょぼしたり、まばたきが多くなったりすることがあり、最初は一時的に現れることが多いですが、進行することもあります。
眼瞼下垂は、重症筋無力症の中でも「眼筋型」と呼ばれるタイプでよく見られます。このタイプでは、目の筋肉だけに症状が現れ、全身の筋肉にはあまり影響がないこともあります。しかし、進行すると、顔の他の筋肉や、手足の筋肉などにも影響が出ることがあります。
重症筋無力症の症状は?
重症筋無力症の症状は、疲れると特に強く現れます。朝は元気でも、午後になると症状が悪化することがあります。以下のような症状が見られることがあります。
眼瞼下垂:まぶたを持ち上げる筋肉が動かず、目が開けにくく、まぶたが下がる。
複視:眼球を動かす筋肉がうまく動かず、目が二重に見えることがある。
顔面の筋肉の弱化:笑顔が作れない、顔がしびれた感じがする。
嚥下困難:食事を飲み込むのが難しくなる。
呼吸困難:重症の場合、呼吸に関わる筋肉が影響を受け、呼吸が困難になることがある。
重症筋無力症の診断は?
重症筋無力症が疑われたら、以下のような検査を組み合わせて診断します。
1. 症状の問診と診察
医師は患者さんの症状を詳しく聞き、まぶたや手足の筋肉の動き、筋力を調べます。特に、「疲れると症状がひどくなるか」を確認します。特に瞼の症状では、特殊な目薬をさして瞼が開く反応があるかを見たり、氷で冷やして瞼が開くかを確認する、上の方を注視させて疲労でまぶたが落ちてこないかを確認する、などのテストを行います。
2. 血液検査
眼瞼下垂が重症筋無力症によるものかを調べるため、当院では血液検査で、重症筋無力症に関連する抗体(特にアセチルコリン受容体抗体)を調べます。多くの患者さんでこの抗体が確認されます。
3. 神経学的検査
神経が筋肉にどのように信号を送るかを調べる検査です。特に、「反復刺激試験」という方法で筋肉が疲労しやすいかを確認します。
4. エドロホニウムテスト(テンシロンテスト)
医師が特定の薬(テンシロン)を注射して、筋力が一時的に改善するかを確認します。これは、重症筋無力症の可能性を判断するための古典的な方法です。
5. CTやMRI検査
重症筋無力症の中には胸腺腫という胸の中の腫瘍が原因となっている場合があります。そのため、CTやMRIで胸腺を調べます。
重症筋無力症の治療法は?
重症筋無力症は完全には治りませんが、治療によって症状をコントロールすることは可能です。主な治療方法には以下があります。
薬物治療:筋肉の動きを助ける薬や、免疫の働きを抑える薬が使われます。
免疫抑制療法:免疫系が過剰に働いている場合、免疫を抑える治療が行われます。
手術:胸腺という免疫に関係する器官に問題がある場合、手術で胸腺を取り除くことがあります。
リハビリ:筋力を維持するために、体を動かすことが重要です。
まとめ
重症筋無力症は、神経と筋肉の信号伝達に問題が生じて、筋肉がうまく動かなくなる病気です。眼瞼下垂はその代表的な症状です。そのため当院では眼瞼下垂症状がある方は採血を行い、重症筋無力症かどうかを確認してから手術を行っております。抗体陽性であれば、その後の治療方針が大きく変わってくるためです。重症筋無力症が強く疑われる場合は、内科的治療を優先するため連携する病院の神経内科へご紹介となります。眼瞼下垂症状があり、他にも上記のような症状が認められる場合は早めに医療機関を受診しましょう。
この記事の執筆者
医療法人マリン&サンズ
元町マリン眼科
理事長・院長 蓮見由紀子
所属学会・認定医
医学博士
日本眼科学会認定専門医
横浜市立大学附属病院非常勤講師(ぶどう膜専門外来)